dynabook RJ74開発者インタビュー 第12世代Core搭載の14型で1kg切り「Rの称号を持つdynabook」

dynabook RJ74開発者インタビュー 第12世代Core搭載の14型で1kg切り「Rの称号を持つdynabook」

ビジネスプレミアムをうたう「dynabook RJ74」。発売は2022年春で、価格は未定。「まずは」法人向けに提供とのこと

製品に盛り込まれた「革新|核心」について、開発に携わった当事者であるDynabook執行役員 国内マーケティング&ソリューション本部長の柏田真吾氏、同執行役員商品・設計・NCC・ビジネスパートナー戦略所管の中村憲政氏、同PC事業部 商品統括部 商品企画部 部長の杉野文則氏に語ってもらった。

dynabook RJ74の主な仕様
型番 dynabook RJ74/KU
OSWindows 11 ProもしくはWindows 10 Pro(選択可)
CPUIntel Core i7-1270P vProIntel Core i5-1250P vProIntel Core i7-1260PIntel Core i5-1240P
メモリ16GB8GB 16GBもしくは8GB
ストレージ 256GB SSDもしくは512GB SSD
グラフィックス Iris Xe グラフィックス
光学ドライブ
ディスプレイ 14.0型WUXGA(1,920×1,200ドット、ノングレア)
通信 Wi-Fi 6(IEEE802.11a / b / g / n / ac / ax)準拠の無線LAN、Bluetooth 5.2、ギガビット準拠の有線LAN
生体認証指紋/顔認証 有り無しを選択可
インタフェースUSB 3.2 Type-A(Gen1)×2、Thunderbolt 4(USB4 Type-C)コネクタ×2、HDMI出力×1、マイク/ヘッドホン出力×1など
サイズW312.4×D224.0×H15.9mm
重さ後報
バッテリー駆動時間(JEITA 2.0)後報
OfficeOffice Home & Business 2021 有り無しを選択可

「パワフル」でも「軽い」、相反する要素を取り入れる

──第12世代Coreプロセッサは、第11世代までと異なり、処理能力重視のPコア、省電力重視のEコアを内蔵するハイブリッド構成が特徴です。dynabook RJ74ではこの第12世代CoreとWindows 11をより効率的に制御できると訴求していますが、その理由は何でしょうか。

11世代Coreプロセッサと比較して、第12世代Coreは熱設計のハードルがかなり上がりました。第12世代のCoreプロセッサをWindows 11のシステムに載せれば、PC側の処理に応じて各々のコアがバランスよく動作します。しかし、それだけで全てが快適に動くわけではありません。

Processor Base Power 28ワット(※)という高いベース電力の条件で、フルパフォーマンスをできるだけ長く継続して発揮する、というところが実は重要になります。一瞬だけ28ワットで動作しても、ベンチマークテストのスコアとしては低いままです。

※……第12世代Intel Coreで新たに設定されたCPUの熱設計電力の指標。「TDP」に相当する。

ターボ・ブースト時など、28ワットを超える電力が必要なときも放熱できるよう制御していますが、dynabook RJ74ではあくまでも定量的に28ワットを放熱する、という前提で設計しました。どれだけ上(28ワット)に張り付いて粘り強く動かせるか、というところがDynabook開発陣の腕の見せ所だと考えています。

──28ワットで「長く動かす」ために工夫した点はどんなところでしょうか。

dynabook Vシリーズでも、第11世代CoreプロセッサのTDP 28ワットという条件下で最大の処理能力を発揮するために、冷却性能でとても苦労しました。今回の第12世代Coreプロセッサでも冷却性能に注力しています。

Dynabookでは独自の冷却技術を含め、TDP 28ワットでのCPU駆動をエンパワーテクノロジーと名付けて訴求してきましたが、このテクノロジーでは、底面のCPU設置直下から外気を取り入れてCPUを効率よく冷却し、暖められた空気を2基のクーラーファンで排出します。

このとき、排出した暖かい空気を底面で再度取り込まないように吸気スリットのすぐそばにゴム足を塀のように設けることで、効率を維持したままCPUを冷却できるようにしています。この冷却機構の設計には試行錯誤の時間を短縮するために、事前にシミュレーションを実施して開発段階における効率化も実現しています。

また、14型ディスプレイを搭載したA4サイズのノートPCにもかかわらず、1キロを切る軽量化も苦労した点です。

これもエンジニアリング的視点で言うと、28ワットのCPUをPL1(※)の状態でどれだけ長く使えるようにするかと同時に、15.9mmという薄くて1キロを切る軽い本体を実現するかという、二律背反の実現が厄介でした。

※……Power Limit 1。段階(変動)があるプロセッサの熱設計電力の指標のうち、「TDP」として知られるベースの電力枠

ファンの回転は「大きく、ゆっくり」で静音を目指す

──従来モデルと比べてクーラーユニットはどのようにアップデートしたのでしょうか。

ヒートパイプやヒートシンクの形状、太さ、高さを最適化しています。CPUを中心にして、2基ある左右のクーラーファンに向けヒートパイプを枝分かれして接続する形状は従来と同様ですが、ヒートシンクもヒートパイプも第12世代Coreに合わせ新規に開発しています。

クーラーファンの音に関しても、静かなところでノートPCを使うと、音が大きい場合うるさいとクレームがついてしまいます。ファンの騒音については欧州のユーザーが特に厳しいですね。

そこで、ファンを制御する温度と回転数の関係を定めたテーブルを重点的に見直すことで、回転数を抑えて発生音量を小さくした静音モードを設けるなど、ユーザーがより快適に使えるチューニングを施しました。

当然、従来の第11世代Coreプロセッサ搭載モデルと今回の第12世代Coreプロセッサ搭載モデルとでテーブルの設定は全く異なっています。

dynabookではCPUの近くに設置した温度計の測定値からファンの回転数を制御していますが、温度の上昇に合わせてファンの回転数を階段状に上げていくのか、リニアに上げていくのか、それらを組み合わせていくのかで、数多くのパターンがありえます。

回転数を一気に上げすぎると回転速度が速すぎて、耳障りになります。このあたりは経験で最適な回転数に調整することもあります。

dynabook RJ74開発者インタビュー 第12世代Core搭載の14型で1kg切り「Rの称号を持つdynabook」

第12世代CoreプロセッサはPコアとEコアが連動して動作するので、その意味でもこれまでとは設定内容が異なっています。12コア16スレッドという、コア数スレッド数の増加も考慮する必要があります。

ただ、ピークになったときの温度制御を重視してベンチマークのスコアを高くするという方向ではなく、ユーザーの利用場面を考慮したチューニングを大事にしています。

ファン自体の形状も従来のモデルから変えています。小さなファンを高速で回すと「キーン」という耳障りな音が大きくなるので、たくさんの空気をかきだすようなブレードの形状と角度にして、ブレードの枚数も増やしました。ゆっくりとした回転でも大量の空気を流せるファンを目指しています。

IGZO液晶を採用しなかったのは「タイミング」

──dynabook RJ74でIGZO液晶を採用しなかった理由は?

IGZOの省電力性能はとても魅力的で、採用すればバッテリー駆動時間は明らかに長くできるのですが、dynabook RJ74については、タイミングという理由でしかありません。

採用するタイミング、製品を投入するタイミングが違っていた、という意味です。今後登場するラインアップで採用する可能性はあります。

──ボディカラーに“ブルー系統”を採用した理由は?

Renewの意味を込めています。これまでも“限りなく黒に近いブルー”を採用していたのですが、それとは異なる一線を画した新しいdynabookであることを示すために、ブルー系統でもこれまで使っていなかった「ダークテックブルー」を採用することで訴求しています。

「堅牢性」は入念にシミュレーションを重ねた

──バッテリーも改良を加えているとのことですが、どう変わったのでしょうか。

連続駆動時間を見込み18時間以上に延ばして、1日使えるバッテリー駆動を可能にしています。

それ以外にも、充放電による劣化を抑えてバッテリー寿命そのものも延ばせるように、容量80%で充電を止める設定や、セルごとにバランスを崩さずにバッテリーセルの温度を測定しながら充電できる機能を導入しています。

一方でクイック充電にも対応し、30分で約40%の充電ができる「お急ぎ30分チャージ」モード搭載しています。

今のノートPCの多くは脱着式のバッテリーパックではなく、本体内蔵のバッテリーを採用しています。なので、バッテリーが劣化すると本体を工場に戻して交換することになり、ダウンタイムが長くなってしまう。そういう事態を避けるため、バッテリー劣化を防ぐのは重要だと考えています。

──dynabook R63/M以来となる3年ぶりの「R」のラインナップですね。

dynabookでRの称号が与えられるというのは名誉なことなのです。2011年に「ウルトラブック」として出したR632から数えると約10年になりますね。Rには解決を意味する「Resolution」、刷新を意味する「Renew」、革新を意味する「Revolution」の単語を込めています。

「Resolution」にはdynabookをコアにしたハードウェアやソフトウェア、ネットワークを使い、トータルで実現するコンピューティングの提供を目指しています。

また、第12世代のCoreプロセッサで処理能力が強化され、ディスプレイサイズも14型を採用するなど、従来のモデルとは一線を画する部分も、「Renew」「Revolution」にふさわしい進化を遂げたと考えています。

──海外PCベンダーでは以前から「13.3型ディスプレイ搭載のボディサイズに14型ディスプレイを搭載」したノートPCがあり、Dynabookでも「dynabook M」など同様のモデルがあります。今回、dynabook RJ74でこの点を訴求した狙いはありますか。

海外PCベンダーが投入するモデルの多くは重さが弱点だと考えていました。オーバー1キロが当たり前です。

Dynabookとしては、他社ができない軽さに挑むことになります。日本のユーザーの需要を考えると、1キロを切って妥協しないところを目指す。これはdynabook RJ74の最初の開発コンセプトでした。

軽量化のためには本体サイズを薄くしなければなりません。しかし、RJ74には、有線LANに使うRJ-45(有線LANポート)を本体に搭載しています。

実は開発時、ボディを薄くするため、いったん有線LANを本体から外しました。有線LANポートは高さがありますからね。しかし、商品企画から日本のオフィスでは有線LANは必須だと強い要望があったため、復活させたという事情がありました。

軽量化と堅牢化はトレードオフの関係にあります。軽くするために最も有効なのはフットプリントの削減です。

今回は13.3型相当のフットプリントに14型ディスプレイを搭載すること自体が軽量化につながったほか、筐体の厚みを現行13.3型ノートPC「G83/HS」(2021年3月発表)の17.9mmから、15.9mmに薄型化しました。加えて基板の軽量化(G83比で4%減)、底面のネジ数減などが軽量化に貢献しています。

ただ、CPUもベース電力28ワットのモデルを搭載しなければならず、冷却機構の容積もこれまでから大きくなりました。となると、その他の部分を切り詰める必要がでてきます。そうすると、今度は衝撃から中の部材を守るために必要な、ボディ内部の“余白”を切り詰めなければなりません。

その上で、MIL-STD-810Hに準拠した製品テストをクリアできる堅牢性を持たせるのは困難です。特に「耐衝撃」に対する強度を持たせるのが大変でした。衝撃を吸収するスペース的な余裕がないので、RJ74では衝撃を分散することで内部を守っています。

開発では、ボディが受けた衝撃がどのように分散するか、物理演算シミュレーションで検討を重ねました。応力(外部から受けた力により内部に発生する力)が集中する箇所を見つけて、そこから力を分散するにはどのような構造にしたらいいのかを、検討していきました。

リブ(補強材)の設置個所ひとつとっても、力を受けそこねると破壊され、他の部材まで破損するリスクがあります。リブの場所もシミュレーションを重ねて検討しました。東芝時代からこれまで蓄積してきた堅牢におけるノウハウも活用されています。


dynabook RJ74は第12世代Coreプロセッサの採用、14型ディスプレイの搭載、薄型軽量かつ堅牢なボディの実現とRの称号にふさわしい進化を遂げている。現在も2022年春の出荷に向けて処理能力のチューニングが進んでおり、重さやバッテリー駆動時間といった詳細はもう間もなく判明する。どのような“R”が出現するのか。期待とともに待ちたい。