AppleやGoogleはなぜ自動運転車両の製造を狙い、自分たちだけで作ることを諦めたのか?【自律自動運転の未来 第14回】

AppleやGoogleはなぜ自動運転車両の製造を狙い、自分たちだけで作ることを諦めたのか?【自律自動運転の未来 第14回】


 自動運転技術の最先端の話題を紹介していく本連載、第14回となる今回は、AppleやGoogleといった大手IT会社の「自動運転車両の開発」について。数年前まで「Appleが自動車を作る」、「Googleが自動車産業に参戦」という報道が自動車専門メディアや経済誌に大きく取り上げられました。数年もたたずに登場する…と言われていたApple製の自動車やGoogle製のクルマは、しかし2021年6月時点で市販化されていません。

 AppleやGoogleは自動車を丸ごと作ることを諦めてしまったのでしょうか? それとも別の形で自動車業界に参画することにしたのでしょうか? 自動運転技術に造詣の深い西村直人氏に、AppleやGoogleの自動車開発と、現時点でのトヨタやホンダとの違い、将来の参画可能性について伺いました。

文/西村直人 写真/Adobe Stock(アイキャッチ画像@Bihlmayer Fotografie)、TOYOTA、西村直人

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■AppleとGoogleが自動車に言及したのは2014年

「AppleとGoogleは、いつになったら自動運転車両の製造を始めるのか?」。

 このテーマについて、

①AppleやGoogleに比べてトヨタやホンダはどう優れているのか? ②逆にトヨタやホンダになくてAppleやGoogleが持つものは何か? ③現時点でIT/IoT企業と自動車メーカーの関係はどうなっているのか? 

 上記を論点にしながら解説します。……が、その前にお伝えしたいことが2点あります。

 1点目。AppleやGoogleはこれまで自動運転技術を搭載した車両を「自社ブランドとして」、いつ発売するのか、それともしないのか、明言をしていません。同時に、どの自動車メーカーと提携するのかについてもノーコメントです。

 存在が囁かれてから、すでに7年が経過しようとしていますが、姿や形が明確になったのはプロトタイプと称されるアドバルーン的なものばかりです。

 2点目。AppleやGoogleなどのIT/IoT企業は、これまでモノを販売することだけで業績を積み重ねてきたわけでなく、いわゆる「ソフトウェア」カンパニーとしての立ち位置を主軸にしてきました。

 PCやスマートフォン関連に始まる自社製品(MacBook AirやChromebook、iPhoneやGoogle Pixelなど)、すなわちハードウェアの販売はソフトウェアを業界標準(ディファクトスタンダード)化するための手段でしかなかったわけです。

AppleやGoogleはなぜ自動運転車両の製造を狙い、自分たちだけで作ることを諦めたのか?【自律自動運転の未来 第14回】

 各論点に入る前に、現時点まで両社が自動運転技術搭載車について歩んできた道のりを整理します。

 Appleは2014年に自動運転技術を搭載した「Appleカー」を世に知らしめました。北米などでの実証実験を重ねつつ、自社開発した(実際は多くのベンチャー企業に在籍する秀才の手による)システムを市販車に搭載したプロトタイプも披露しています。

 Googleも同じく2014年、自動運転技術を搭載したプロトタイプをメディアに公表していますが、現在は単独での車両開発を取りやめ、自動運転技術を制御するシステム開発を中心に稼働しています。

 ここからが本題です。冒頭の論点に沿って考えていきます。

■AppleやGoogleに比べてトヨタやホンダはどう優れているのか?

 トヨタやホンダといった自動車メーカーが、AppleやGoogleに対して優位に立っているのは、わかりやすくモノ(この場合はハードウェアである「車両」そのもの)作りに秀でていて、しかも世界中で大量に生産し、リコール率が低いことです。

 さらに販売した後も、正規の販売店が責任をもって個々の顧客に接する点。ここに異論はないはずです。

 2020年にトヨタ・グループ(ダイハツや日野自動車含む)が世界で生産した台数は9,213,195台(100%)で、うち日本国内での生産は3,944,484台(約42.8%)。

 一方のホンダは2020年度(2020年4月~翌3月)での計上ながら、世界生産が4,532,586台(100%)で国内生産が687,419台(約15.2%)です。

 ちなみに、iPhoneシリーズが2020年に世界で生産した台数はおよそ2億台と言われていますが、有償サポートやOSなどのアップデートこそあっても、ユーザーの手に渡った後は自己管理が基本です。

 自動車もiPhoneと同じく生産したら当然、販売しなければ利益確定とはなりませんから、販売拠点であるディーラーには適切な運用が求められます。

 さらに、車両はPCやスマートフォンと違い、乗り方や扱い方によって整備が異なるため、顧客ごとのきめ細やかな対応が求められます。

 事故や故障でダメージを負った車両の修復もディーラーにおける重要な作業です。

 また、日本においては車検/点検制度があり、さらには車両の不備を改めるリコール制度も浸透していますから、それらにもつぶさに対応していかなければなりません。

 このように自動車メーカーは、数多くの車両を世界で生産、販売し、その上でパーソナルユースでのきめ細やかな移動をサポートしています。

 また、トヨタやホンダは多種多様な世界のニーズに合わせた商品ラインアップを展開しながら、裏ではプラットフォームの共通化や目に見えない部分の部品の共有化、さらにはMBD(モデルベース開発)によってサプライヤー企業とも連携しながら、営業利益率を高めています(例/トヨタ2020年4月~翌年3月の値は8.1%)。

 機械を販売して利益を得ることにAppleやGoogleとの違いはないのですが、車両の開発プロセスを共有/多元化することや、販売した車両の維持管理体制の構築こそ、トヨタやホンダに代表される自動車メーカーの強みであるわけです。

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