誰もが噛みたくなる東京2020のメダルは廃棄ガジェットを再利用

誰もが噛みたくなる東京2020のメダルは廃棄ガジェットを再利用

 閉会式まで残り数日となった東京2020オリンピック競技大会では、これまで数多く最強アスリートTOP3に金・銀・銅のメダルを授与してきました(なおも続きます)。日本人アスリートも多くのメダルを獲得しており、その枚数は現在(2021年8月7日17時時点)のところ計52枚(金:24枚、銀:12枚、銅:16枚)となっています。

 本題の前に、ひとつの疑問にお答えしましょう。今大会では、あまり見る機会が少なかったかもしれませんが…メダリストたちの多くがこれまで、写真撮影の際に「メダルを噛む」という仕草をしてきました。最近ではそれを、アスリートでない方が行ったことで話題にもなりました…。

 2021年8月4日(水)のこと、ソフトボール日本代表として金メダルを獲得し、「レジェンド・上野由岐子さんの後継者」とも言われている後藤希友選手が地元の名古屋市役所へ表敬訪問したときのことです。名古屋市長の河村たかし氏が感謝状を渡したおりに、後藤選手がそのお礼として河村氏の首に金メダルをかけるというパフォーマンス。すると河村氏は、かなりうれしかったのでしょう。または、後藤選手の五輪優勝に対する興奮が直に伝わったのかもしれません。さらには、後藤選手と前打ち合わせをした上でのカメラサービスという可能性もあります…。おもむろにマスクを外し、金メダルを噛むパフォーマンスをしました。しかも、リアルに噛んでいます。

 新型コロナウイルス感染症の拡大が大きな問題となっているこの時期、これは反省すべき行動です。が、その気持ち、わからないわけでもありませんよね!?

  後藤選手も微笑ましく見守っているようにも見受けられますし、河村氏もきちんとその後謝罪をしているので、これ以上問題視すべきではないかと思います。ここで言いたいのは、河村氏のように「なぜわれわれの頭には、メダルと言えば“噛む”という行為が刷り込まれてしまっているのか、それを探りたくありませんか?」ということです。

Tony DuffyGetty Images

 これまで数多くの「噛む」行為を観てきて、「なぜメダルを噛むふりをするのか?」と気になられた方も少なくないでしょう。

 国際オリンピック歴史学会のデービッド・ワレチンスキー理事は、2012年に行われたCNNの取材に対して、「おそらくメディアを満足させるため」と指摘していました。「カメラマンの強迫観念となっている」として、「彼ら(カメラマンたち)はおそらく『話題になる』ため、この行為を名物シーンとみなしているからだと思われます。多分、選手たちが自らの意志でやっていることだとは思えないですね」と、コメントしています。

Quality Sport ImagesGetty Images

 また、「メダルを噛む仕草」が行われているのは、古い慣習によるものとの説もあります。かつて金貨で取引を行っていた時代には、本物の金かどうかを確かめるために歯で噛んでみるという行為が慣例的に行われていたということ。それを同じく金のメダルで象徴的に表現したという説です。

 …ですが、ここでエスクァイア日本版が思うところを言えば、これは前出のワレチンスキー理事のコメントに近いのですが…。以下、ちょっと長いので無視しても構いません(笑)。

「これまでメダルを噛むメダリストたちを憧れの目で観てきたトップアスリートたちは、その映像が脳裏に刻む込まれ、ある者は『いつか自分も表彰台に立ったときにはやってやる』と決意していた選手もいるでしょう。またそんな決意もなく、表彰台にのぼってカメラマンがシャッターを切る音がスイッチとなり、自然と刷り込まれている過去の表彰台を飾ったアスリートたちの映像が頭に浮上したと思ったら、『無意識のうちに真似して噛んでしまった…』という選手も必ずいるはずです。なのでここはワレチンスキー理事の意見と違って、今では選手たち自らの意志で行ったときもあるはずです。

誰もが噛みたくなる東京2020のメダルは廃棄ガジェットを再利用

 でも、ここで知りたいのは、『そもそもこの行動が多く観るようになったのはなぜか?』だと思います。これは想像のレベルでしかないですが、『カメラマンの要望だから』に尽きるのではないでしょうか。その場に居合わせたカメラマンの使命は、翌日(今となってはその日中)のメディアのトップを飾り、話題になる(バズるような)メダリストの写真が欲しいわけです。なので、「なるべく顔をアップで、さらにはメダルも含めた写真も撮らなければ…という強迫観念と共にシャッターを押しているはずです(それでも、ズームアップとズームインのバランスを考えながら撮影していると思いますが)。

 そこで、カメラマンがその課題をクリアするために、『すみません、メダルを可能な限り顔に近づけてください!』という要望が立て続けることによって、この行動に結びついたのではないか…と踏んでいます。あるとき、さらなる変化を求めたカメラマンが『じゃ、噛んじゃいましょうか!?』と言ったのではないか? 以来、『それはナイス!』と報道陣は思い、習慣化されたと推察します。もしかすると、むしろ選手側から始まった行為という可能性もあります。『うれしさのあまり、思わず噛んじゃった!』とも思えますので…。とは言え現在では、もはや列記とした習慣。それに習うか習わないかは、もはや選手次第というわけですね」

 …と、当編集部小川が勝手な推論をかましていますが、これをたたき台に皆さんも探ってみてはいかがでしょうか?

 それではここで、東京2020におけるメダルそのものについて再確認しておきましょう。公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会によれば、「金・銀・銅の各メダルはすべて、リサイクルされたエレクトロニクス製品からつくられている」と、2019年の段階で発表しています。その詳細に関しては、本サイトで2019年7月27日に西園優太(ざいおん ゆた)氏著の記事で紹介しています。

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 開催まで時間が長くなったので、皆さんの中にはつい忘れてしまっていた方も少なくないでしょう。組織委員会はメダルプロジェクトの方針を、「すべての人の革新的な未来を築くための取り組みとして、持続可能なメダルの製作を決定」と記されています。

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 また、東京2020メダルプロジェクトのページには、「この取り組みの狙いはアップサイクリング(創造的再利用)によって不朽(ふきゅう)の遺産を生み出し、環境に優しく持続可能な社会に貢献することです」ともつづられています。

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 メダルの製作プロセスが開始されたのは2017年初めで、日本は使わなくなったエレクトロニクス製品を収集し、メダルに再利用することを発表。それ以来、組織委員会は五輪をより持続可能なものとするため、結果的に全国参加自治体による回収(携帯電話を含む小型家電回収)は約7万8985トン、NTTドコモによる回収(ドコモショップ約2300店舗にて、携帯電話を回収):約621万台となったということ。

Getty Images

 組織委員会は東京五輪に必要な約5000個のメダルをつくるために、寄付されたさまざまなガジェットから約32kgの金と約3500kgの銀、約2200kgの銅を最終的に確保したそうです。また日本政府は、メダルに使用されなかったさまざまな素材もリサイクルしたとのこと。

 今回のプロジェクトは、同様の方法でエレクトロニクス製品(テレビやコンピューター、キーボードなど)を再利用してメダルをつくった2010年開催のバンクーバー五輪から着想を得ています。当時の取り組みでは、バンクーバーの金属企業であるテック・リソーシズがカナダ造幣局と協力して、およそ1000個のメダルを製作していました。

 毎日がクライマックスであった東京2020オリンピックも、あと残りわずか。2021年8月24日(火)からは、東京2020パラリンピックが始まります。

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Source /Popular MechanicsTranslation / Wataru Nakamura※この翻訳は抄訳です。