量子コンピューターがもたらす変革--大きな影響が見込まれる8分野

量子コンピューターがもたらす変革--大きな影響が見込まれる8分野

 現在、世界中の巨大企業が量子コンピューティングプログラムを立ち上げて、各国政府が量子の研究に資金を注ぎ込んでいる。量子コンピューターは、有用性がまだ証明されていないシステムであるにもかかわらず、間違いなく大きな注目を集めている。

 その理由は、量子コンピューターが(まだ成熟には程遠いものの)最終的にはコンピューティングの全く新しい時代を切り開くと予想されているからだ。その新時代においては、複雑な問題を解決する際に、ハードウェアが制約にならなくなり、従来のシステムだと何年も、あるいは何世紀もかかるような計算を数分で完了することが可能になる。

 より効率的な新素材のシミュレーションから、株式市場の変動予測の精度向上まで、ビジネスへの影響は巨大なものになる可能性がある。本記事では、主要組織が現在模索している量子コンピューティングのユースケースを8つ紹介する。これらは業界全体の現状を一変させる可能性を秘めた用途だ。

1. 創薬

特集:量子コンピューターを知る--現状と今後

 創薬は、分子シミュレーションとして知られる科学分野に部分的に依存している。分子シミュレーションとは、分子内の粒子の相互作用をモデル化することで、特定の疾患を撃退できる構造を作り出す試みだ。

 それらの相互作用は極めて複雑で、多様な形状や形態をとるため、分子がその構造に基づいてどのように振る舞うのかを正確に予測するには、膨大な量の計算が必要になる。

量子コンピューターがもたらす変革--大きな影響が見込まれる8分野

 これを手作業でやるのは不可能だ。また、問題の規模が大きすぎて、古典コンピューターでは対応できない。むしろ、70個の原子しかない分子のモデル化でも、古典コンピューターでは最大130億年かかると予想されている。

 こうした理由から、創薬には非常に長い時間がかかる。科学者は多くの場合、試行錯誤のアプローチを採用し、標的の疾患に多数の分子をテストして、成功する組み合わせが最終的に見つかることに望みをかける。

 しかし、量子コンピューターはいつか、分子シミュレーションの問題を数分で解決できる可能性を秘めている。多数の計算を同時に実行できるように設計されているため、分子を構成する粒子間の極めて複雑な相互作用のすべてをシームレスにシミュレーションすることが可能で、科学者は有効な新薬の候補を短期間で特定できる。

 そのため、現在の救命薬は発売までに平均10年かかるが、設計の期間が短縮され、費用効率が大幅に向上するかもしれない。

 これに製薬会社が注目している。2021年に入って、ヘルスケア大手のRocheがCambridge Quantum Computing(CQC)と提携してアルツハイマー病研究の取り組みを支援すると発表した。

 小規模企業もこの技術に関心を持っている。たとえば、合成生物学のスタートアップMenten AIは、量子アニーリングを手がけるD-Waveと提携し、最終的に治療薬として使用する新しいタンパク質の設計に量子アルゴリズムを活用する方法を見つけ出そうとしている。

2. より高性能な電池の開発

 自動車への電力供給から再生可能エネルギーの貯蔵まで、電池はグリーン経済への移行をすでに支えており、その役割は今後も拡大する一方だろう。しかし、現在の電池は決して完璧ではない。まだ容量が限られていて、充電速度にも限界があるので、常に適切な選択肢にはならない。

 解決策の1つは、電池の製造にもっと適した新素材を探すことだ。これも分子シミュレーションの問題であり、このケースでは新しい電池素材の候補になりそうな分子の振る舞いをモデル化する。

 したがって、医薬品設計と同様に、電池の設計でも膨大な量のデータを扱うため、古典デバイスよりも量子コンピューターに適した作業だ。

 そのため、ドイツの自動車メーカーDaimlerはIBMと提携して、さまざまな環境における硫黄分子の挙動のシミュレーションに量子コンピューターがどう役立つかを評価しようとしている。両社の最終目標は、現在のリチウムイオン電池よりも高性能で、長時間持続し、コストを抑えたリチウム硫黄電池を開発することだ。

より効率的な新素材のシミュレーションから、株式市場の変動予測の精度向上まで、量子コンピューティングはビジネスに極めて大きな影響を及ぼす可能性がある。(提供:IonQ)