ウォール・ストリート・ジャーナル日本版  子ども版インスタの他にも FBが狙う低年齢層

ウォール・ストリート・ジャーナル日本版 子ども版インスタの他にも FBが狙う低年齢層

 フェイスブックにはここ数日、若いユーザーに与える影響や、子ども向けプラットフォームを作る取り組みについて一段と風当たりが強まっている。同社内部では何年にもわたり、世間に知られている以上に13歳未満の子どもを引きつけるさまざまな計画が立てられていた。それを駆り立てたのは、フェイスブックの未来を左右する新世代のユーザーを失うかもしれないという危機感だった。

 ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が確認したフェイスブックの内部文書によると、同社は13歳未満を対象にした研究チームを結成し、彼らに向けた製品を増やす3年間の目標を設定し、それらの潜在的ユーザーがもたらす長期的なビジネスチャンスに関する戦略計画書をまとめていた。

 2020年のある内部文書には「われわれはなぜトゥイーン(10~12歳)に注目するのか」と書かれている。「彼らは価値が高いにもかかわらず手つかずのオーディエンスだ」

出所:2020年2月のフェイスブックの社内プレゼン資料「Tweens Competitive Audit」より

 子どもたちを勧誘し、そのことで批判を受けるテクノロジー企業は、フェイスブックだけではない。中国の北京字節跳動科技(バイトダンス)が運営する「TikTok(ティックトック)」や動画共有サイトのユーチューブをはじめ、実質的に全ての主要ソーシャルメディア・プラットフォームが、子どもの利用に関する法律上や規制上の問題に直面している。米連邦プライバシー保護法は13歳未満の子どものデータ収集を禁じており、議員たちはハイテク企業がネット上で子どもたちを犯罪者や有害なコンテンツから守るためにもっと努力すべきだと批判している。

 フェイスブックの内部文書からは、競合アプリ(特にスナップが運営する「スナップチャット」や「TikTok」)との競争が、こうした取り組みの動機付けになったことが分かる。

 同社の若いユーザーに対する姿勢は、30日に開かれる上院小委員会の公聴会で取り上げられる見込みだ。公聴会ではフェイスブック傘下の画像共有アプリ「インスタグラム」が精神衛生に与える影響を調査することになっている。WSJは今月、インスタグラムが10代の特に少女のメンタルヘルスに有害なことがフェイスブックの社内調査で明らかになったと報じていたが、議員らは公聴会開催を求めるにあたり、この記事を引用した。

 インスタグラムの責任者アダム・モセリ氏は27日、「インスタグラム・キッズ」の名で呼ばれることが多い、子ども向けインスタグラムの開発を一時中止すると発表した。モセリ氏は開発を進める前に、フェイスブックが保護者や専門家、議員らに説明する時間が必要だと述べた。また同氏は13歳未満の子ども向けバージョンがなければ、対象年齢以下のユーザーは単に年齢を偽ってインスタグラムを使うだろうとも主張した。

 リチャード・ブルーメンソル(民主、コネティカット州)、マーシャ・ブラックバーン(共和、テネシー州)両上院議員は、フェイスブックが子どもたちに自社製品を宣伝・販売するためにどのような調査を行っているのかを明らかにしたいと述べた。

「大きな賭け」

 フェイスブックは過去5年にわたり、同社のサービス全般で13歳未満の子どもにとって魅力的な製品を作る「大きな賭け」に臨んでいたことが、今年の内部文書から分かる。

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Source: Internal Facebook memo titled, ‘Youth Privacy: Defining five groups to guide age-appropriate design’

出所:フェイスブックの社内メモ「Youth Privacy: Defining five groups to guide age-appropriate design」より

 フェイスブックはその間に十数回の調査を行い、どの製品が子どもや「トゥイーン」に響く可能性があるのか、彼らは競合他社のアプリをどのように見ているのか、保護者が心配している理由は何かを理解しようとした。

 「タブレットやスマートフォンが普及し、早ければ6歳からインターネットに触れる機会がある。われわれはこれを無視できないし、方策を考える責任がある」。2018年の機密扱いの文書にこうある。「若いユーザー向けに設計されたフェイスブックの体験を想像してほしい」

 今年、フェイスブックのある上級研究員が子ども向け製品の設計についてどう考えるべきかという新たなアプローチを社内で提示した。そこには、低年齢の子どもたちに同社の製品を提供する方法が詳細に描かれている。単に2種類の製品(13歳以上向けの製品と子ども向けメッセージアプリ)を提供するのではなく、六つの年齢層に合わせて機能を最適化すべきだと「where we’ve been, and where we’re going(フェイスブックの過去と未来)」と題するスライドで説明した。

 六つの年齢層は、成人、ティーン後半(16~18歳)、ティーン前半(13~15歳)、トゥイーン(10~12歳)、子ども(5~9歳)、幼児(0~4歳)で構成される。

 フェイスブックの広報担当者アンディー・ストーン氏は書面で、これは社内で議論するための子どもの成長段階の分類法だと述べた。

 企業が若い世代をターゲットにすることは珍しくない。だが、ソーシャルメディア大手の同社にとっては微妙な問題だ。フェイスブックとインスタグラムは13歳未満の子どものアプリ使用を禁じているが、一方で、同社の未来は最終的に彼らを取り込めるかどうかにかかっている。

 「13歳未満であれば、インスタグラムの利用は認められない。彼らが当社のサービスを使うべきではない」。モセリ氏はこの記事に向けた文書でこう述べた。「ソーシャルメディアが、ティーン世代やそれ以下の世代のテクノロジーの使い方を理解しようとすることは、新しくもないし秘密でもない。もちろん他の企業と同様、当社も次世代を引きつけたいと考えるが、それは、われわれが当社のアプリを使用できる年齢に満たない子どもを故意に勧誘しようとしているという虚偽の主張とは全く異なる」

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 モセリ氏によると、同社は年齢制限の規則に違反したとして過去3カ月間に60万件以上のアカウントを削除したという。

ライバルの台頭

 フェイスブックが子ども向け製品を初めて手掛けたのは、2017年に始めた動画チャットアプリ「メッセンジャー・キッズ」。親がアクセス制限できる機能を重視した。同アプリは6~12歳を対象に設計され、データ収集に関する法的要件を満たすとされている。ファミリー向け製品を売り出すことで、子どもたちがいずれ他のフェイスブック傘下のプラットフォームを使い始める土台になると期待していたことが、内部文書から分かる。

 「当社の最終目標は、米国のトゥイーン世代の間でメッセージアプリの主導権を握ること。それはティーン世代の獲得につながる可能性がある」と内部文書の一つにある。

 同年、フェイスブックの市場調査チームがこの計画の弱点を明らかにした。メッセンジャー・キッズへの興味は10歳を過ぎると次第に衰えるうえ、トゥイーン世代はフェイスブックを年配者が使うものと見なしていた。また、彼らはインスタグラムやそこで展開される「自己表現」にもまだ興味がなかった。インスタグラムは低年齢層に人気が高まっていたスナップチャットの挑戦に対し、脆弱(ぜいじゃく)な立場にあった。

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Is there a way to leverage playdates to drive word of hand/growth among kids?

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Is there a way to leverage playdates to drive word of hand/growth among kids?

Source: May 2019 Facebook internal report titled, ‘Exploring playdates as a growth lever for Messenger Kids (Findings from the MK Community)’

出所:2019年5月の社内報告書「Exploring playdates as a growth lever for Messenger Kids (Findings from the MK Community)」より

 「楽しくて、面白くて、くだらなくて、クリエーティブで、まさに彼らにうってつけだ」。2017年のプレゼン資料はスナップチャットについてこう指摘。トゥイーン世代が「ソーシャルメディアに登録するのはもはや当たり前」だと警告した。またTikTokの台頭にも圧迫され、ティーン世代の間でフェイスブックの主力製品は競争力を失いつつあった。

 「世界のティーン世代へのFB(フェイスブック)の浸透率は低い。新規獲得ペースも鈍っている」と2021年3月の内部文書は述べている。米国ではフェイスブックのティーン世代のデイリーアクティブユーザー数は過去2年間に19%減少し、2023年までにさらに45%減少する可能性が高いと別の文書に指摘がある。

 ピュー・リサーチ・センターが2020年に実施した調査では、9~11歳の子どもたちの30%がTikTokを、22%がスナップチャットを、11%がインスタグラムを、6%がフェイスブックを利用していると答えた。

 2021年3月にフェイスブックのクリス・コックス最高製品責任者(CPO)に行われた調査報告では、インスタグラムは依然、先進国のティーン向けソーシャルメディア市場に浸透していた。だが内部文書によると、インスタグラムのユーザー投稿が大幅に落ち込み、ティーン世代はその2~3倍の時間をTikTokに費やしていると調査員たちは指摘した。

安全性の課題

 ソーシャルメディアにおける子どもの安全を守ることは業界全体の課題だ。ここ数年間に子どもを保護する連邦プライバシー法の規定に違反したとしてTikTokとユーチューブが提訴され、それぞれ和解した。それ以降、両社ともに若いユーザーを守るルールを厳格化し、子ども向けバージョンの提供を始めている。

 また、子どもたちがアダルトコンテンツに触れる危険性もある。今年WSJが行った調査では、TikTokのアルゴリズムが未成年者として登録されたアカウントにセックスや麻薬を含む動画を提供していることが分かった。フェイスブックは2019年、設計上の欠陥により、メッセンジャー・キッズを使っている子どもが、全く知らない人とのグループチャットに参加できる状態だったと発表した。

 フェイスブックが抱える広範な課題の一つとして、社内調査員らが指摘するのは、親は自分の子どもが同社製品の中でフェイスブックを使うことを最も快適に感じる一方で、トゥイーン世代はフェイスブックを自分たち向けのアプリとは考えていないことだ。

 ある11歳の男の子は同社の調査員に対し、「フェイスブックは40歳くらいの人が使うものだ」と述べた。

 フェイスブックのあるチームは、子どもたちが友達と直接交流するのに「メッセンジャー・キッズ」を利用するよう促すチャンスがあるのかを探るため、子どもたちへのインタビューを実施したことが、2019年の社内プレゼン資料から分かる。親たちはこのアイデアに警戒心を示したという。

 また家庭内の力学に関する研究では、ティーン世代は自分より年下の親族にインスタグラムを始めるよう勧めることが多いものの、その一方で、トゥイーン世代に対し、あまり頻繁にシェアしないように、また後になって後悔するような内容を投稿しないようにと助言することが明らかになった。

 13歳未満を対象とするフェイスブックの研究チームは、彼らに向けたソーシャルメディア製品の提供方法を3年間で考え出す目標を立てた。同チームによると、彼らへのアプローチ方法を考えることは課題の半分であり、保護者に製品の安全性を納得させることが残りの半分だという。

 「ソーシャルメディアを通じてわれわれが得ているのと同じ利点を、若い世代に経験してもらう歴史的なチャンスがある」とメンバーの一人は内部文書で述べている。

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